但馬は、日本最後のコウノトリの生息地であった。1000メートル級の山々と豊かな平野部を擁するこの地で、小川から流れ込む水を湛えた水田は、空や雲を写し、日にきらめき、ぬるく柔らかな泥は、蛙やメダカ、ドジョウなど様々ないのちのざわめきに満ちていた。
そして、その生きものをついばむコウノトリがいた。
しかし農業の近代化と環境の変化によって生きものは次第に減少し、野生のコウノトリは1972年を最後に姿を消した。人間が米を採るために、失ったものは大きい。 その但馬で、コウノトリを大空に帰そうという動きが始まった。

2005年、飼育されたコウノトリが野に放たれた。JAたじまは、その餌となる生きものを育む田んぼづくりを進めた。
現代は水路が田んぼより低く整備されており、生きものが棲みやすい深い水を保つには毎日水位を管理しなければならないため、熟練の農家の協力が欠かせない。
JAたじまは1軒1軒農家を周り、頼み込んだ。少しずつ、この農法に取り組む農家が増えて行った。
やがて田んぼには、再びたくさんの生きものが戻ってきた。2012年、但馬に放鳥コウノトリの第三世代が生まれた。現在、60羽を越えるコウノトリが、田んぼで餌をついばむ。但馬の景色が変わった。

［米販売元］笹屋米店　［取材・文］角 舞子