1954年、島貫は300年以上続く農家の長男として生まれた。
20歳頃から父とともに稲作を始め、40歳で九代目を継ぐ。

島貫は「マニュアルは大嫌い」と言う。
「毎年、気候が違うだろ？去年と同じ作り方で、今年もうまい米になるとは限らない。毎日田んぼに出てると、天気も、温度も、1日だって同じ日は無いんだ。俺はそういうのを感じながら作りたいの」

島貫の田んぼには、地下深くから汲み上げる夏でも冷たい井戸水が引き込まれている。
「最近は温暖化で夜でも気温が下がらないから、稲が休めないのよ。俺たちが熱帯夜が寝苦しいのと同じで、稲も生きものだからよ。そうすると米にデンプンが蓄積されにくくなる。だから俺は、冷たい井戸水を夜に掛け流してやるんだ。稲がバテないように、うまくなるようにって」

そうして実った黄金色の稲穂を、島貫はいとおしそうに手に取る。「この色っけが最高だろ？」うまさと量。無農薬・有機の米づくりでそれを同時に追うのは、実は非常に難しい。

しかし、だからこそ、うまい米をたくさん採るのが島貫のポリシーだ。

「そのくらい夢がないとよ。この田んぼでざっと3万1千粒。稲穂見ただけで分かるのよ。今年は粒はりもいい。まずまずだよな。」島貫の顔が、やんちゃな子供のように輝いた。

［米販売元］笹屋米店　［取材・文］角 舞子